七宝の川面を小舟が行く黒引き振袖【fuh14】

ぼかしの技法が素晴らしい一品です。きものを染める際の「ぼかし」は高度な技術と手間が必要とされ、平坦に塗るのとは大きく異なり、何度もぼかしの箇所を薄めていきながら糊を落としてまた塗ることを繰り返します。そうした手間暇をかけて一枚の生地を仕上げていきます。このきものは、おとなしい中にも大人の風格を備えた、見事な仕上がりですね。

ゆるやかな川の流れが筆一本で表現されているのも見事です。川には水車が回り、太鼓橋が掛けてあります。その中をゆるりと小舟が進んでいきます。水車、太鼓橋、小舟のいずれにも、七宝や雲取り、青海波、菊の花などの古典紋様が手描きされ、優美なことこの上ありません。それらを覆うように雲取り紋様と吉祥の花々が描かれています。着付けてみると、両肩から衿に花があしらわれ、ちょっとした動きにも優美さを醸し出すデザインです。ほんとうに夢のようなアンティーク黒振袖です。

白い丸帯には、鼓や横笛などの楽器と花々や鳳凰が、手刺繍で施されています。軽やかな色合いの糸をふんだんに使い、若々しく仕上がっていますね。静かな柄行の振袖に対して、アンティークながらもポップな色柄の丸帯で、雰囲気もぴったりと合いました。こんなに手の込んだ手刺繍は、現代物ではお目にかかることはあまりないと思います。丁寧に手入れをしながら、皆さまに使っていただきたいですね。

画像は成人式をイメージしてコーディネートしましたが、花嫁さんの「お引き摺り」としてお召しいただいても素敵です。