たまご色に刺繍丸紋、鳳凰獅子の振袖【fui02】

最初にきものを見た時には本当に衝撃でした。このような作品を作った人が過去にいたのか、これが世の中に残っているのかと、手が震えました。すべて手描き、すべてが手刺繍！こんなに手間のかかった手刺繍は、是非お手にとってご覧いただきたい、目からうろこの一着です。

この振袖は大阪・船場から譲り受けたものです。届いた時にずっしりと重たくて、「なぜ重いのだろう」と思ったことを覚えています。箱を開けてよく見ると、全てが絹糸で刺繍されていました。きものの表面が盛り上がるほど、丁寧な手刺繍が全体に施されていました。

絵柄もすべて異なっており、前には鳳凰、衿と肩には鶴、後ろには獅子、松、波柄、筋斗雲（きんとうん）のような雲柄、橘、葵、梅など、波にも金糸、銀糸が使われています。いったい何色の糸を使っているのだろうと思うほどです。あまりに見事で溜息が出てしまいます。

紋は、一般的な丸紋ではなく、橘が両側から寄り添った感じにデザインされています。帯は、七宝の柄が金糸で織り出されたものを合わせました。きものと帯をいっしょに譲り受けたわけではないのですが、結んでみるとぴったりと寄り添いました。

約半世紀、きものに携わってきましたが、これほどのきものと帯に出会えることは数えるほどで、出会えたことに感謝しています。しまっておくだけではこのきものに申し訳ないので、１人でも多くの方にお召しいただけたらと思います。こんな衝撃の出会いがあるから、きもの屋はやめられません。