丸みのある吉祥柄の五つ紋付黒振袖【fuk44】

表も裏も全部絹で作られたアンティーク黒振袖です。錦紗縮緬に手描き友禅、手刺繍もほどこされた上質なきものです。全部絹ですから、着心地はすばらしく良いですよ。

松竹梅に鼓や扇、菊や桐、鶴も描かれています。この松は印象的ですね。赤くて丸い松、ブルーも入っています。先が尖っていないので、柔らかい印象です。梅も可愛らしいし、扇や鶴もおめでたい柄です。

笹の葉も珍しい色です。笹の葉は緑というのが相場なのですが、赤やブルーも使われています。うーんと唸ってしまうほどおしゃれです。

ただ、家紋が不思議です。たいへん高級な友禅染ですから、注文が入ってから作り始めるはずなのですが、この家紋は石持ちという白く抜いてあるだけの状態で、紋が入れられていません。紋はあとから入れるつもりで、まだ着ていなかったのでしょうか。ですが、仕付け糸は外してあるんですよね。ちょっと謎ですね。不思議なきものです。

袂には、岩陰の水辺に吹き抜けの宮が描かれています。恋するお姫さまの宮ですね。その昔、殿方と会うことはありませんでしたし、お顔を見せることも許されてはいませんでした。ですが、漏れ聞く噂や、遠くから見かけたお姿、遠くに聞こえるお声などで、恋をすることはありました。

会うことも、恋文を届ける手段もないお姫さまは、吹き抜けの宮で、得意の楽器を弾き、その調べで想いを伝えたといいます。そうと察した殿方は小舟に乗って、水の上から楽器の音色でお返事されたとか。今では考えられない、もどかしい恋ですね。

恋する二人の想いがさりげなく描かれたきものです。身丈が１５４cm、袖丈が１０１cmです。小柄なお嬢さんのサイズですね。