古典柄の訪問着を楽しむ|柄の魅力と文化的背景、シーンに応じた選び方
はじめに
訪問着、とりわけ古典柄のものは、ハレの日の装いにふさわしい格式と洗練されたデザインによって、さまざまな行事や式典で着用されています。この記事では、古典柄の訪問着の歴史と魅力について、詳しく解説します。着物をこれから楽しもうと考えている方のために、訪問着の楽しみ方をお伝えできればと思います。
訪問着と古典柄の歴史
訪問着は、その格式高さと絵羽模様の美しさで知られています。中でも古典柄は、日本の歴史上の文物や自然をモチーフにして、繊細かつ豊かな表現がされています。ここでは、訪問着がどのようにして誕生したか、そして古典柄がどのように時代を超えて愛され続けているかを解説します。
訪問着の由来と古典柄の魅力
訪問着が誕生したのは大正時代で、着物としては比較的新しいものです。当時は、着物と言えば留袖のような礼装用か普段着しかなく、お出かけ用に着られる着物が欲しいという女性たちの要求にこたえて三越百貨店が打ち出したのが「訪問着」でした。
結婚式のお呼ばれや卒業式の付き添い、お茶会や観劇などといった幅広いシーンで、年齢や既婚・未婚の区別なく着られるということで、訪問着は大人気となりました。現代では、一つ紋を入れた訪問着は略礼装、三つ紋入れると準礼装、五つ紋を入れると留袖と同じ正装として着ることができます。訪問着には留袖と同じように絵羽模様が入るので、礼装として着る場合は古典柄が描かれたものを選ぶと、より格式を上げることができます。
古典柄とは、「伝統文様」とか「和柄」とも呼ばれ、奈良時代や平安時代から伝わる日本古来の装飾模様のことです。正倉院文様と呼ばれる正倉院に保管された文物によって伝えられた文様は、遣唐使がもたらしたインドやエジプト、イラン、ギリシア、ローマなどのシルクロード経由のものもあり、日本最古の文様として知られています。
平安時代の貴族文化は、遣唐使が途絶えたこともあって、正倉院文様をアレンジしたり日本独自の文様を新たに生み出したりしました。貴族が使う生活用具や伝説に登場するもの、また自然や季節の風物などをモチーフに作り出した、数々の繊細なデザインの文様が伝わっています。これらの柄は「王朝文様」と呼ばれたり「有職(ゆうそく)文様」と呼ばれることもあります。
それらを含めて「古典柄」と呼ばれていて、やがて武家文化にも取り入れられて発展し、江戸時代には町人文化としても発展しました。特に江戸時代は、長く平和な時代が続いたことから、織りや染めの技術が高度に発達したため、着物の文様としての古典柄も華やかで豪華なものになりました。現代の訪問着の柄には、こうした平安時代から続く伝統と文化が色濃く反映されています。訪問着に秘められた歴史や文化を知ることで、訪問着を着る楽しみがより大きくなるのではないでしょうか。
代表的な古典柄とその意味
古典柄にはそれぞれ独自の意味が込められており、深い文化的背景があります。ここでは、特に人気のある代表的な古典柄とその意味を紹介します。
- 菊:菊は長寿や精神の充実、高貴さを象徴します。花弁が放射状に丸く広がるところから太陽に見立てられ、最高位の花とされています。菊は皇室の紋章としても使われていて、文様としても格式が高いとされます。
- 松:松は不老長寿を象徴します。常緑樹である松は、一年中緑を保ち、冬の寒さにも耐えることから、長寿と不滅のシンボルです。新年やお祝いの席で特に好まれるこの柄には、健康と長寿を願う気持ちが込められています。
- 桜:桜は五穀豊穣や富貴繁栄を象徴します。「さくら」という言葉には、語源的に「神さまの宿るところ」という意味があり、桜が咲く頃には神さまは里に降りてきて桜に宿り、人々は農耕を始めたわけです。見た目の華やかさと共に、桜は結婚式や入学式などの行事にふさわしい意味を持った柄です。
- 梅:梅は忍耐と復活を象徴します。寒い冬を耐え抜いて早春に花を咲かせる梅は、困難を乗り越える力を表します。冬から春にかけての装いにぴったりで、厳しい状況を乗り越える強さを意味します。
- 流水:流水の模様は永遠の若さと活力を象徴します。絶えず流れ続ける水のように、若さや活力を保ち続けることを意味します。前向きな生活を願う思いが込められており、結婚式にふさわしい模様と言えます。
ハレの日の装いを選ぶ際には、これらの古典柄の意味するところを参考にすることで、より自分らしい訪問着を見つける手助けになるでしょう。
訪問着のレンタル入門
訪問着をレンタルすることは、ハレの日にふさわしい着物を手軽に着るための素晴らしい方法です。ここでは、着物に不慣れな方でも簡単に訪問着をレンタルするためのポイントや手順について解説します。
初心者向けの理想的な訪問着の選び方
訪問着選びで大切なのは、行事の格式と季節を考えて選ぶことです。初心者が訪問着を選ぶ際に注意すべき点を以下にまとめました。
- 行事の格式:結婚式やお茶会など、出席する場の格式の程度を見極め、自分の立場にふさわしい訪問着を選ぶことが大切です。
- 季節:季節感を表すために花柄がよく選ばれますが、訪問着を着用する時期に咲いている花よりも、季節を先取りして花の種類を選ぶのがコツです。例えば、桜が満開の時期に訪問着を着る予定ならば、すでに桜柄では遅いので、牡丹や藤などの次に咲く花の柄を選ぶといった具合です。
- 色と柄:年齢や個人のスタイルに合わせて、落ち着いた色柄や華やかな色柄を選びます。色は季節感を表すことができるので、季節に合ったものを選びます。柄は花柄でもいいですが、お祝いの席には「良い兆し」を表す吉祥柄が似合います。その場の性質に合わせて選びましょう。
- サイズ:身長や体型に合った訪問着を選ぶことで美しく着こなすことができ、着崩れもしにくくなります。
これらの基本を押さえることで、初めての方でも訪問着を上手に選ぶことができるようになるでしょう。
お得なレンタルの方法
訪問着をレンタルする際に、お得に利用するための方法を紹介します。
- 早期予約割引を使う:多くのレンタルショップでは、早めに予約すると割引が受けられることがあります。例えば、レンタルの3か月前に予約すると10%オフになるサービスを実施したりすることがあります。特に人気の時期(卒業式や入学式シーズンなど)には早めの予約が大切です。
- セットプランを選ぶ:訪問着本体だけでなく、帯や小物(草履、バッグ、帯締めなど)がセットになっているプランを選ぶと、全体をコーディネートしやすく、価格的にもお得です。セットで借りると、個別に借りるよりも安くなることが多いです。
- レビューをチェックする:既に利用した方のレビューを見て、品質やサービスの良いレンタルショップを見つけます。レビューには、着物の状態やショップの対応について詳しく書かれていることが多いので、参考になります。
- 近くのショップを利用する:近くのショップを利用すれば、何かあったときにすぐに対応してもらえます。例えば、急なサイズ変更や着付けに関する相談がしやすくなります。また、交通費や送料を節約できる利点もあります。
これらのポイントを押さえることで、訪問着のレンタルをお得に、かつスムーズに利用することができます。
「ゆめや」がご用意した、結婚式のお呼ばれや卒業式にもピッタリな訪問着です。大きな橘が織り込まれた正絹の綸子地がピンク色に染められ、八重梅や橘が手描きされた、抱き柏の一つ紋付き訪問着です。花の縁や波などには金駒刺繍がほどこされ、若々しくかわいらしい印象の訪問着です。たくさんの色が使われていますが、アンティークの上品なしっとり感に包まれています。菖蒲や椿が織りと手刺繍で描かれた帯を合わせました。袴と合わせてもお召しいただけます。
訪問着の四季の着こなし
訪問着を着用する際は、季節に合わせて色柄を選ぶというだけでなく、季節に合った素材や仕立て方を選ぶことも大事です。ここでは、季節ごとの訪問着の素材や仕立て方の種類について解説します。
訪問着の素材は正絹とポリエステル
訪問着の素材としては、シルク100%の正絹(しょうけん)と化学繊維(ポリエステル)に大きく分けられます。麻や木綿、ウールなどは、訪問着の素材としては基本的に使われません。正絹は、そのなめらかな触り心地と見る角度によって変わる独特の光沢で知られています。ポリエステルは軽さに特徴があり、最近は正絹と見分けるのが難しい高品質なものも出てきています。
正絹は上質な生糸で織られているため、上品で美しい光沢があります。きめ細かな糸で織られているので、滑らかで柔らかな触感が感じられます。結婚式のお呼ばれや七五三とか入学・卒業式の付き添いなどフォーマルな場に着ていく際は、より格式の高い正絹の訪問着を選べば間違いないでしょう。
季節ごとに仕立て方を選ぶ
訪問着ならず着物には、季節に合った仕立て方があります。袷(あわせ)、単衣(ひとえ)、薄物(うすもの)がそれです。袷は裏地のある着物であり、10月から5月にかけての寒い季節に適した着物です。単衣は裏地の無い着物で、6月と9月という夏と冬の境目に着られます。正絹や縮緬、紬などの生地が使われます。薄物は単衣仕立ての織目の粗い着物で、夏の暑い時期に着られます。薄物に用いられるのは、絽(ろ)や紗(しゃ)、羅(ら)といった透け感のある生地です。
訪問着を選ぶ際は、袷であればかなり広い季節をカバーできますが、暑さが予想される場合は単衣を、真夏であれば薄物の訪問着を選ぶこともできます。ただ、絽の訪問着はフォーマル向きですが、紗や羅の訪問着は格式の高い場には向きませんので注意が必要です。セミ・フォーマルやカジュアルな場であれば、問題なく着れます。
紬や縮緬、御召の訪問着は、素材は絹ですが糸の撚り方の違いによって独特な風合いを作り出します。紬や御召の訪問着はカジュアル向きなのでフォーマルな場で着ることはできませんが、縮緬の訪問着はフォーマルからカジュアルな場まで対応することができます。
これらのポイントに注意して、季節やシーンに応じたぴったりの訪問着を選んでください。
訪問着と調和する小物の選び方
訪問着を着る際は、適切な和装小物を選ぶことで装いをさらに引き立てることができます。ここでは、特に重要な帯と足袋、草履の選び方について詳しく解説します。これらのアイテムを上手に選ぶことで、訪問着の美しさを最大限に生かすことができます。
帯の種類と基本の結び方
訪問着は帯の合わせ方次第で、より美しく見せることができます。帯はその種類と結び方によって、着物の印象を大きく変えることができます。訪問着に合わせる帯には、次の2種類があります。
- 袋帯:フォーマルな場にふさわしい格式のある帯で、織りや柄などの豊富なデザインと豪華な装飾が特徴です。結婚式のお呼ばれや七五三の付き添いなど、公式な行事に最適です。二重太鼓結びにするのが一般的です。
- 名古屋帯:セミ・フォーマルからカジュアルな着こなしにも使える帯で、扱いやすさが初心者にも好評です。訪問着をカジュアルダウンして着る時に選びます。帯の結び方は、一重太鼓結びになります。
足袋と草履の選び方
訪問着に合わせる足袋と草履の選び方も非常に重要です。以下の点に注意して選んでください。
- 足袋:訪問着には、白い足袋を履くのが一般的です。フォーマルな場では白い足袋を履くのがマナーなので、正装や準礼装として着用されることが多い訪問着は、礼装として白い足袋を履きます。カジュアルな場では、淡い色の色足袋でもいいでしょう。
- 草履:草履も足袋と同じように、礼装の場合はかかとの高い礼装用の草履を履きます。色は金、銀、白の中から選びます。カジュアルな場では、訪問着の色や柄に合わせて選ぶのが基本です。
これらの小物を選ぶ際には、全体のバランスを考えて、訪問着との調和を重視しましょう。適切な小物を選ぶことで、訪問着がよりいっそう美しく映え、特別な日をさらに華やかに彩ることができます。
「ゆめや」が提供する、どなたにも着ていただける古典柄の入った応用範囲の広い訪問着と帯です。日本橋・三越であつらえられた逸品です。光沢のある綸子地に、雪輪、菊、小花、撫子などが細かく手描きされた、大変手間のかかる一点物の訪問着です。帯は、菊、おしどり、花、七宝、撫子、梅などが手刺繍されたベージュ地の現代物の袋帯を合わせました。織りの帯締めもすてきです。どなたがどのシーンでお召し頂いてもふさわしく、ご満足いただける訪問着です。
卒業式と入学式におすすめの古典柄の訪問着
子どもの卒業式や入学式などに付き添う際には、訪問着がよく選ばれます。このようなフォーマルな式典に、訪問着はまさに打って付けです。ここでは、卒業式と入学式に適した古典柄の訪問着と、それに合わせる小物の選び方について詳しく解説します。
卒業式におすすめの吉祥柄
卒業式は、子どもが学び舎を離れ、新しいステージに進む節目のイベントです。それにふさわしい訪問着の色や柄を選ぶのがマナーになります。卒業式には「吉祥柄」と呼ばれる古典柄が描かれた訪問着だと、この祝福すべき日にぴったりだと言えます。代表的な吉祥柄を以下に紹介します。
- 松:松の柄は長寿と繁栄を象徴し、新たな人生の門出を祝うのにふさわしいものです。
- 鶴:鶴の柄は幸福と長寿を意味し、将来への希望をこめて卒業の節目を祝うのに適しています。
- 波:波の柄は困難を乗り越えて前進する力を表し、これからの人生に対する希望を象徴します。
入学式にふさわしい吉祥柄と和装小物
入学式は新しい学業の始まりを祝う日です。子どもの付き添いとしてこの日の装いには、清潔感と上品さを兼ね備えた装いがふさわしいと言えます。訪問着の柄には、以下のような古典柄が特におすすめです。
- 桜:桜の柄は新たな始まりを象徴し、春の季節感を感じさせます。
- 花菱(はなびし):花菱の柄は繁栄と幸福を意味し、新しい環境での成功を願う気持ちが込められています。
- 小花の連なり:辻が花などに顕著な小花が連なるこの柄は、控えめで繊細な美しさを持ち、入学式の雰囲気にぴったりです。
入学式で着る訪問着には、色や柄を引き立てる帯揚げや帯締めを選び、足元には清潔感のある白い足袋とシンプルな草履を合わせるのが良いです。また、和装バッグは控えめながらも品のあるデザインを選ぶことで、全体の調和が取れたコーディネートが完成します。
卒業式や入学式に訪問着を選ぶ際は、式の意味や季節を考えた古典柄と小物の組み合わせが重要です。これにより、子どもの大切な日にふさわしい、上品な装いを実現することができます。
結婚式やお茶会での古典柄の訪問着のコーディネート
結婚式はさまざまな式典の中でも特に格式の高い場であり、女性が親族やゲストとして出席する際は、訪問着を着用することが多いです。一方、お茶会は、フォーマル度が茶会によってさまざまなので、それにあわせて着物の種類を選ぶ必要があります。古典柄の訪問着は、すべてのイベントにふさわしいというわけではなく、より効果的な場というものが存在します。ここでは、結婚式とお茶会にぴったりの訪問着の選び方と、それに合わせる袋帯について詳しく解説します。
結婚式にぴったりの古典柄と金彩のコーディネート
結婚式に出席する人が着る訪問着は、めでたい祝いの席ですので華やかな色柄のものが選ばれます。特に金彩を施した古典柄の訪問着は、その豪華な輝きで式場に華を添えることができます。結婚式におすすめの古典柄とその特徴を以下に紹介します。
- 菊:長寿と幸福の象徴であり、結婚式には縁起が良いとされています。
- 牡丹:富貴と幸福の象徴とされ、豪華で華麗な印象を与えるため、結婚式に適しています。
- 松竹梅:長寿や逆境に耐え抜く生命力の象徴とされ、結婚式にふさわしい縁起のいい柄です。
これらの古典柄はすべて「良いことの兆し」を意味する「吉祥」の象徴であり、特に「吉祥柄」とか「吉祥文様」と呼ばれています。吉祥柄は新郎新婦の幸せな未来を願う意味が込められて、結婚式の衣装によく使われます。結婚式の親族が着る色留袖や、ゲストに呼ばれた際の訪問着の柄としてもふさわしいものです。
金彩で彩られた吉祥柄の訪問着には、金彩で装飾された古典柄の袋帯を合わせるとさらに華やかさが増します。結婚式にふさわしい装いには、古典柄と金彩が重要な働きをします。
お茶会に最適な華やかな古典柄と袋帯の選び方
お茶会は、フォーマルなものからカジュアルなものまで、さまざまな格式のものが開催されています。侘び寂びを味わうのが本旨なので、着て行く着物も落ち着いた色柄のものがふさわしくなります。お茶会に訪問着を着て行くのは、格式の高い席に限られます。月釜や野点(のだて)、お茶の稽古などカジュアルな場に訪問着を着て行ったりすると、場違いになるので注意が必要です。カジュアルな席には、訪問着よりも色無地や小紋などの方がふさわしいでしょう。
初釜は新年最初の茶会のことですが、格式が高くおめでたい席です。初釜に行くときは、金彩入りの古典柄の訪問着が、まさに打って付けです。派手過ぎず、品があるものを選び、金彩や刺繍で彩られた袋帯を合わせると、新年のおめでたい茶席にふさわしい装いになります。
このようにお茶会に出席する場合は、茶会の格式に合わせて着物を選ぶことが必要です。最初に茶会の格式を確認した上で、衣装を選ぶのがいいでしょう。
まとめ
訪問着は、着物の種類としては比較的新しく登場したものですが、フォーマルからカジュアルまで着られる汎用性の高さと、年齢や既婚・未婚の区別なく着られる許容範囲の広さによって、多くの女性たちから選ばれています。この記事では、訪問着と古典柄の由来や季節ごとの着こなし、レンタル方法やシーン別のコーディネート術まで、詳しく解説しました。訪問着や古典柄についての知識を深めることで、訪問着の魅力をより深く味わってください。